講師の技術的なコツの第一は、「最初の5分ですべては決まってしまう」という厳しい現実を認識することから始まります。
スピーチに関しては、「終わりよければすべてよし」は当てはまりません。
最初の5分がすべてです。
これは体験を通して会得したことではありますが、ある意味科学的根拠があることなのです。
アメリカの心理学者ズーニンは、『人の第一印象は最初の4分で決まる』と実験結果から発表しています。
これを〈ズーニンの法則〉といいます。
スピーチにも当てはまります。
人の第一印象による影響はとても強く、初めに『面白そうだな』とか『良い話が聞けそうだな』と好印象を持たれると、後の展開がとても円滑に進むものです。
反対に『退屈そうだな』『難しそうだな』などと悪印象を持たれると、その後挽回することは時間が短いだけに非常に困難になります。
特に、テレビや雑誌などメディア出演しているような有名講師なら別ですが、知名度のない一般講師の場合、この「最初の5分」で全て決まります。
1〜2時間程度の標準的なスピーチであれば、最初の5分の出来次第で聴講者がその後真剣に聞くか、それとも寝てしまうか決まってしまいます。
いえ、聴講者が聞くか聞かないか決めてしまいます。
といったほうが適切でしょうか。
例えて言うならば、テレビの連続ドラマの第1回放送を観て、『面白くない』と感じた人が2回目以降も継続して観ることは、ファンである俳優が出演している場合などを除けばまずないでしょう。
また連ドラの場合、視聴率が悪ければ2回目以降脚本や演出に手を加えたり、俳優のテコ入れなどして立て直すことも稀に可能ですが、1〜2時間のスピーチだと最初につまづくとその後立て直すことは限りなく難しいのです。それが可能なのは、相当の場数を踏んでいる経験豊かなごく一部の講師のみです。
逆説的に言えば、最初の5分で聴講者を惹きつけることができれば、その後多少内容にゆるみが出てもある程度誤魔化すことが出来るのです。
それほど「最初の5分」は大切です。
ですから、私はスピーチの導入部分に特に力を入れています。 |